プリプレグ: 熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂の基本的な違い
プリプレグの概要についてはこちらをご参考ください。

プリプレグといえば、熱硬化性樹脂のものをイメージする人が多いと思いますが、熱可塑性樹脂のプリプレグ(UDテープとも呼ばれます)の活用も今後拡大していくものと思われます。ここでいう熱硬化性樹脂はエポキシ樹脂、熱可塑性樹脂は、PEEKやPEKKなどのスーパーエンプラをイメージしています。繊維は一方向をイメージしています。
熱硬化性樹脂
- 熱を与えて硬化。
- 不可逆性
- 常温での形態は硬化度によって異なる。
- 脆い
- 粘度が低い
- 昇温過程で硬化反応
熱可塑性樹脂
- 熱を与えて軟化、冷めて固まる
- 可逆性
- 常温で固体
- タフ
- 粘度が高い
- 冷却過程で結晶化
以上が熱硬化性樹脂と、熱可塑性樹脂の最も基本的な特徴です。
以下、プリプレグについて説明します。
製造方法
熱硬化性樹脂プリプレグ
- 樹脂フィルムを作製し、並べた繊維に加熱加圧して含侵させる。
- 樹脂フィルムの厚さを調整することで、繊維含有率を精密に制御することが可能。
熱可塑性樹脂プリプレグ
- 粘度が高いのでフィルムを用いての含侵が難しく、溶媒に溶かす方法、水中に粒子を分散させて含侵させる方法などがある。
- 樹脂フィルムのように、一定量の樹脂を含侵させることが難しく、繊維含有率のムラが熱硬化性樹脂プリプレグよりも大きい。
保管方法
熱硬化性樹脂プリプレグ
- 密封して冷凍保存。冷凍庫が必要。
- 使う際は、水分がプリプレグに付着しないように、密封したまま解凍する。
熱可塑性樹脂プリプレグ
- 室温保管OK、密封もしなくてよい。
手触り
熱硬化性樹脂プリプレグ
- 粘着性(タック)がある。
- 室温へ放置した時間が長くなるにつれ、タックが少なくなる。
熱可塑性樹脂プリプレグ
- 表面の樹脂量が多い場合はツルツルする。
- 乾いており、粘着しない。
力学特性
熱可塑樹脂は繊維/樹脂界面が接着しにくく、炭素繊維の表面処理またはサイジング剤によって、接着性を高めておく必要があります。
また、熱可塑性樹脂プリプレグはプリプレグを均質に製造することが難しく、含侵不良が内在し、非繊維方向の物性を下げる場合があります。
上記を鑑みても、力学特性に関しては、樹脂じん性の高い熱可塑性樹脂プリプレグが圧倒的に有利です。特に、非繊維方向の物性は界面がある程度接着している場合、樹脂じん性が支配的であるため、熱硬化性樹脂プリプレグよりも優れた物性を示します。
成形方法
熱硬化性樹脂プリプレグ
- オートクレーブ。品質良く成形品を製造できますが、大掛かりな設備と時間が必要なので、成形サイクルが熱可塑性樹脂よりも劣ると言われています。
- プレス成型。最近では速硬化性の樹脂が開発されており、成形サイクルは数分レベルになっています。金型は熱いままでよく、熱可塑性樹脂プリプレグよりも早い成形サイクルが可能です。
- タックがあるので積層が楽。
熱可塑性樹脂プリプレグ
- オートクレーブも熱硬化性樹脂プリプレグと同様に適用可能。ただし、タックがないので積層工程で熱を与える必要あり。
- プレス成型は冷えた金型を使うか、金型を冷やさないと脱型できない。
- AFPにより、積層しながら成形品を成形可能。しかし、密着不良などが懸念され、積層後に結局再加熱が必要な場合が多い。
最後に
今後は熱可塑性樹脂プリプレグの活用が航空機用途などで拡大していくといわれています。熱硬化性樹脂プリプレグよりも成形が難しい(粘度が高く、成形温度が高い)ので、成形技術の進歩が、活用のカギとなります。
一方で熱硬化性樹脂の進歩も期待しています。樹脂靭性、Tg、硬化速度、(あと値段)これらを改善していくことで、熱可塑性樹脂に対抗できます。
今後も2つのタイプのプリプレグ技術がどのように進歩し、活用されていくか、注目です。