2020年5月31日に、2名の宇宙飛行士を乗せたSpaceX社の宇宙船Crew Dragonがフロリダのケネディ宇宙センターから打ち上げられ、無事に国際宇宙ステーションにたどり着きました。大きな話題になりましたね、私もリアルタイムで打ち上げられる宇宙飛行士になった気持ちでyoutubeのLive放送を見ていました。
- フロリダから9年ぶりの有人飛行
- 民間企業であること。
- 歴史が浅い企業であるにも関わらず、ボーイング社との宇宙船開発の競争に勝ったこと
いずれをとっても、偉業です。夢がありますね。ガンダムの世界のように、地球ではなく宇宙に生活空間を作るようなことが現実になるのでしょうか。
しかし、残念なことに、この宇宙船には炭素繊維は用いられていないそうです。その理由は、このサイトを引用すると、
- 高温時の耐久性
- コストが高い
ということです。どこかで、低温時の強度、プロセスが難しい、というようなことも原因と書いた記事も見たと思いますが、今回は上2つに絞ってもう少し具体的に説明します。
高温時の耐久性
宇宙船に必要な耐熱性
宇宙から帰還する際に、宇宙船が空気の断熱圧縮を引き起こして生じる温度上昇は、スペースシャトルの場合では1650℃近くであったと言われています。速度が速いほど温度が高くなります。実際の映像とか映画・アニメなどで見たことある人も多いと思いますが、明らかに燃えてますよね。
つまり、相当な耐熱性が必要です。熱安定性に加えて、放熱が良い(熱伝導率が高い)ほど、温度上昇を抑えられるので好ましいです。
逆に、低温側に関しては宇宙空間は約―270℃だそうです。寒いなんてもんじゃないです。宇宙船の表面の材料にはこのように、極低温から高温まで耐えられる材料である必要があります。
炭素繊維複合材料の耐熱性
炭素繊維自体の耐熱性は500℃くらいから酸化し、引張強度も低下します。しかし、それ以上に複合材料としては、マトリックス材料の耐熱性に大きく依存します。
マトリックスが炭素の場合(C/Cコンポジット)、耐熱温度は不活性雰囲気において2000℃を超えます。スペースシャトルの外装に使われたタイルもC/Cコンポジットでしたね。炭素繊維が酸素に触れないようにすることで、酸化を防ぎ、高い耐熱性を維持しています。
一方で、マトリックスがプラスチックの場合、品種によって多少差はあるとはいえ、熱硬化樹脂の場合は400-500℃程度で焼き飛ばされ、熱可塑性樹脂の場合は融点を超えるとドロドロになってしまいます。
Tgの観点で言えば、熱硬化性樹脂は品種にもよりますが、概ね200℃よりも小さいです。例外的に、ビスマレイミド樹脂(BMI)は280℃近くのTgを有します。それでも、SUS301が800℃近くまで強度を維持することに比べると低いです。

したがって、C/Cコンポジットでない限り、炭素繊維を宇宙船に使うには、表面を分厚い断熱材でコーティングし、力学特性が低下しない温度範囲に維持する必要があります。断熱材の内側の補強材としてはCFRPは優秀です。
ちなみに、より耐熱性に特化した強化繊維として、二酸化ケイ素繊維があります。ハイニカロンが有名ですね。主にセラミックをマトリックスとして、1000℃を超える耐熱性が要求される部位に使われているそうです。
コストが高い
材料コスト
こちらのサイトによると、材料コストが炭素繊維が135$/kgであるのに対し、SUS301は3$/kgとのこと。これは炭素繊維自体なのか、シート基材の話なのか、はっきりはわかりませんでした。いずれにしても、比較になりませんね、見積もりをとったのは、相当良いグレードの炭素繊維だったのでしょう。良いグレードの炭素繊維は焼成工程でじっくりゆっくり焼く必要があり、どうしてもコストが高くなってしまいますし、織物などに加工すればさらに高くなります。
現状、材料コストをステンレス並みに下げるのは不可能です。断熱材の内側の補強材としては長期の運用で、燃料コストや環境への影響で材料コストを還元できるのであれば、炭素繊維を使う価値がありますが、宇宙空間では重力がないので、一旦打ち上げてしまえば比剛性、比強度が高いメリットがあまりないのかもしれません。
プロセスコスト
また、材料コストだけでなく、歩止まりが悪いため、最終的には200$/kgになってしまうとも書かれています。織物基材を切り貼りしていくと、35%程度スクラップになるとのことです。
フィラメントワインディングのように、繊維を巻き付けていく方法であれば余剰分は抑えられるのですが、シート状の基材の余剰分は確かに使いにくく、スクラップにせざるを得ません。
最後に
耐熱性、コストの観点からCrew Dragonに採用されなかったのは、やはり妥当、やむを得ないという印象です。CFRPの弱点がもろに出て、ステンレスの強さが際立ったと感じています。
一方で、打ち上げのロケットには炭素繊維が使われております。打ち上げの際は重力に抵抗するために軽い方がメリットがあるので、CFの良さが生かされています。
ステンレスも私のお気に入りの材料です。二つがうまく調和して、よりよい構造物が設計できる時代となることでしょう。
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