熱による残留応力とは
ごくまれに、このような会話を聞きます。
”熱が冷めて収縮するから圧縮応力が発生するんだよ”
材料力学を学んだ方ならわかると思いますが、逆ですよね。熱で冷めて収縮したら、収縮した状態がゼロの状態になるので、周りに収縮を妨げるものがあれば、引張応力が発生します。加熱の時は逆です。
下図はよくある材料力学の図で、一般的な熱応力発生のイメージです。CFRPは通常加熱しながら形状が形成され、冷却してから製品となるので、冷却時の挙動を考慮することが特に重要となります。
こうして発生する熱による残留応力(熱残留応力)は、成形品を変形させたり、損傷の起点となったりするので、CFRP製品の設計をする際には必ず考慮する必要があります。
熱による影響は、ナノスケールでは樹脂の結晶サイズなどにも影響しますが、ここでは残留応力に絞って書いていきます。
熱残留応力のメカニズム
メカニズムは上に書いた通りで、熱による自由収縮または自由膨張が妨げられることによって、材料内部に応力が発生します。均質材料であれば、
材料の熱膨張係数(線膨張係数)×温度差
分だけひずみが発生した状態が安定した状態、つまり応力がゼロな状態です。
複合材料の場合、単一材料とは異なり、材料を構成するマトリックス材と強化材の熱膨張係数が異なることにより、両者の熱変形量が異なり、単一材料よりも複雑な残留応力となります。
CFRPに関しては、繊維は繊維方向はマイナス、繊維直角方向はプラスの熱膨張係数、樹脂はプラスの熱膨張係数を有していることが一般的に知られています。
熱残留応力の影響
ミクロスケール
ミクロスケールの熱残留応力は難解です。下画像を例に、シンプルに繊維が一本、横方向のみを考え、さらに繊維の熱変形は無視すると、上記と同じように収縮が妨げられた箇所で引張応力が発生します。通常樹脂の熱膨張係数は繊維よりも大きく、熱による影響を受けやすいです。
ここでは、繊維周辺に特に高い応力が発生します。全体的に一様に収縮しようとしても繊維が存在すると、一様な収縮が妨げられて、繊維の円形断面にも影響されて、応力集中が発生します。さらに、繊維が集まると引張応力が発生する箇所が集まり、クラックが発生してしまう場合もあります。
逆に拘束のない自由収縮の場合、繊維の横方向には圧縮応力が働き、横方向に引張るとともに開放されていきます。
厳密には、(上画像の)横方向のみではなく、縦方向の収縮、拘束、繊維上下の応力集中、繊維自体の熱変形など、繊維配置の影響、熱伝導率など様々な要因が重なって熱残留応力となります。FEMなどを用いなければ、それらの要因を考慮して熱残留応力の大きさを計算することは難しいです。
繊維一本一本をモデル化しなくとも、成形体内部に発生する、熱収縮によるひずみ量は計算できるものですので、そこからクラックが発生するかしないか、推定することは可能です。
成形体レベル
ミクロスケールよりも大きいスケール、つまりプリプレグでいうと積層体レベル(メゾスケールなどとも呼びます)では、より目に見えるレベルで変形が生じます。
例えばこのように、非対称積層をしたプリプレグの場合、90度方向にプリプレグは収縮しやすいので、90度方向が内側になるように変形します。上面、下面どちらにも収縮しようとするので、平坦にしようとしてもどちらかに変形してしまい、平坦にはできません。
したがって、変形のないプリプレグの積層体を成形するには、対称積層とすることが鉄則です。特に薄い成形体の場合は顕著に熱変形の影響を受けるので、対称積層にするためにより薄いプリプレグを使うなどの工夫が必要です。
この変形量は繊維方向、繊維の含有率などによって変わります。プリプレグのような連続繊維でなくとも、SMC、引き抜き成形品なども、微妙な非均質性により想定外の変形をすることがあります。なので、できるだけ均質な材料を用いて、熱の影響を受けても変形を予想しやすくすることが大切です。
さいごに
熱は目に見えないものなので、イメージしにくいですが、CFRPは加熱して成形するので冷却プロセスは欠かせず、残留応力はどうしても発生します。そのことを考慮して、製品設計することが重要です。成型時に変に曲がったりしてしまった場合は、まずは熱の影響を疑ってみてください。
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