こちらの記事を紹介したいと思います。Infinite Composites Technologiesという会社が、記事中の写真のようなライナーレス、球形の極低温用タンクを開発中という記事です。液体窒素など、極低温の物質を保存する圧力容器をcryotankといいますが、日本語で何というかわからなかったので、”極低温タンク”としました。

この記事では、少し長いですが、ライナーレス、オールコンポジットにするメリット(軽量性、大型化が可能)や、これまでのタンクのデメリット(重い)について細かく説明されています。大変勉強になる記事だと思います。
ライナーレスとは
ライナーの役割
ライナーレスというのは、通常炭素繊維で圧力容器を製造する際は、金属またはプラスチックのボトルに樹脂を含侵させた炭素繊維を巻きながら製造します。このボトルをライナーといいます。
ライナーは圧力容器の基本形状であり、内容物がCFRPに触れないようにする役割、万一CFRPにクラックが入っても内容物をリークさせない役割があります。
ライナーを使わない:ライナーレス
このライナーのない圧力容器をライナーレス圧力容器と呼びます。タンクが大型になるほど金属のライナーは重量が大きくなります。ライナーレスとすることで、軽量化でき、タンクの大型化が可能です。
ライナーレスタンクの問題点
気体や液体を貯蔵するので、タンクに隙間があれば漏れてしまいます。コンポジットはクラックが入りやすいので、それを防ぐためにタフな樹脂が必要です。
また、製造方法にも工夫が必要です。ライナーありのタンクであれば、ライナーに巻き付けて硬化させ、そのままライナーとコンポジットが一体化したものを製品としますが、ライナーをなくしたい場合、成形中に形状を保持する方法が必要です。
ライナーレスタンクの製造方法
私が知っている範囲では、ライナーレスタンクは以下のようなものがあります。
- 部分的にオートクレーブなどで成形し、接合させて製造する方法
- ライナーのような型にプリプレグなどを巻き付けて硬化させるが、型が硬化後に収縮して取り出す方法
どちらの方法でも、フィラメントワインディングよりも精密に繊維配向を調整でき、ボイドの少ないコンポジットに成形できることがメリットです。
今回の記事の中では、どのような製造方法化は明記されていませんでしたが、おそらく後者に近い技術です。
記事のような球形であれば、巻いている途中に滑ってしまうので、効率よく巻け、かつ適正な強度を保てる巻きパターンの設計も非常に重要です。
ライナーレスタンクの商業化
まだ開発段階だと思っていたのですが、調べるとComposite Technology Development(CTD)という会社で既に商業化されていました。こちらに関連記事を載せておきます。

極低温タンクを製造するときの注意点
記事の中にも書いてあるとおり、そもそもライナーレスでクラックが懸念なのですが、極低温にさらされた場合はさらにクラックが入りやすくなります。
樹脂は極低温ではやや脆性化してしまううえに、熱収縮してしまえば、少々タフな樹脂であっても、クラックは確実に入ってしまうと思われます。
記事によると、グラフェンともう一つの添加剤を樹脂に加えることでクラックを抑制できるほどタフになったと書いてあります。それほどタフな樹脂ならば、他の用途にも展開できるのではないかと思います。
最後に
宇宙用途として、CFRPの適用拡大が進み、人類の役に立てることは喜ばしいことです。そもそも宇宙は極低温なので、クラックをいかにして防ぐかということは、これまで以上に重要になると思います。ケミカルな解決方法、機械的な解決方法、どちらも有り得ると思いますが、両者が互いに弱点を補いながら、解決されていってほしいです。
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