強度利用率とは?
CFRPに関わる人であれば、強度利用率という言葉を聞いたことがある人は多いのではないかと思います。私なりの言葉で説明すると、樹脂を含侵させたCFRPにした際のCFRPが繊維破断で壊れる際にCFに発生している引張応力を、CFが本来持つ破断強度で割った値です。
もっと簡単に言えば、CFRPが壊れる際に、CF本来の強度のどれくらいを引き出しているかということです。
強度利用率が低いと、繊維が破断が起きるはずのない応力、ひずみでCFRPが壊れるので、その分多くCFを使う必要があります。逆に、強度利用率が高いと、CFを余分に使う必要がありません。なので、強度利用率を考慮することは、CFRPのコストパフォーマンスや構造の最適化には不可欠です。
強度利用率は、同じ繊維を使っても、下に記すように様々な要因で上がったり下がったりするので、”この炭素繊維の強度利用率は高い”、というようなことは言えません。構造物としてのバランスや強度利用率の計算方法によって、どのような繊維でも強度利用率が上がったり下がったりしてしまいます。
強度利用率の算出方法
強度利用率の算出方法はいくつかありますが、ここでは強度利用率という言葉を聞く機会の多い、圧力容器とプリプレグについて説明します。
圧力容器の場合
圧力容器の場合は、主に2つあります。一つはひずみゲージを使う方法、もう一つは計算値を使う方法です。事例があるかどうかはわかりませんが、考え方としては、どちらも圧力容器以外のCFRP構造物に適用できるはずです。
ひずみゲージを使う方法
ひずみゲージを使う方法が一番簡単です。圧力容器の表面に、ひずみゲージを貼っておき、破裂した時の破断ひずみを、もともとの繊維の破断ひずみで割った値を強度利用率とします。その際、ひずみゲージは最表面に貼ってあるので、CFRPの最内部のひずみを、圧力容器の内径と外径の比率から算出します。全然難しくないです。
ひずみゲージは大きめのものを複数枚貼る方法が、圧力容器の表面のひずみをより均質化してくれるので好ましいですね。CFの破断ひずみはCFのストランド試験から出した破断ひずみとすることが多いです。
計算値を使う方法
こちらは複雑です。計算といっても、いくつか方法があり、代表的なのがFEMです。さらにFEMにも、ソリッド要素を使う場合、軸対象モデルを使う場合、圧力容器の胴体部のみを考慮する場合など、各団体で方法は変わってきます。
最低限考慮する必要があるのは、繊維の巻角度、各層の厚み、繊維含有率でしょうか。それらをもとに、計算でCFが破断する際の破裂圧力を推定し、実際の破裂圧力をその推定値で割った値を強度利用率とします。
プリプレグの場合
プリプレグの場合は、単純に一方向材の繊維方向引張強度を測定し、その際にCFに発生した引張応力をCFの引張強度で割った値を強度利用率とします。
強度利用率が下がる原因と対処方法
強度利用率が下がる原因は大きく分けて、3つあります。それらについて説明します。
繊維の界面接着に比べて樹脂じん性が低い
これが典型的な強度利用率が下がる原因です。以下のような私の持論があり、100%正しいかどうかは、保証できませんが、言えることは界面接着と樹脂じん性のバランスはコンポジットにおいて非常に重要であるということです。
1.界面接着が強すぎると、樹脂の損傷が界面を通過することで開放されずに、繊維を切断してしまいます。
2.樹脂のじん性が弱いと、樹脂が損傷したときに、損傷する領域が大きいかつ、損傷の先端が鋭くなり、繊維を切断してしまいます。
どちらの場合でも、界面接着を下げるか樹脂じん性を上げる必要があります。界面接着を下げる方法としては、サイジング剤の種類を変える、表面処理量を変えるなどがありますので、CFメーカーと相談するのが良いでしょう。樹脂じん性を上げるというのは接着性を変えるよりもハードルが上がると思いますが、こちらもメーカーと可能なのかどうか、要相談です。
樹脂含侵不良
樹脂の含侵不良というのも、よくある話です。一部では、未含侵が多少あった方がいい、というような話もあるかもしれませんが、私の持論としては未含侵は極力少なくするべきだと考えます。
樹脂の含侵不良があると、CF破断以前に、マイクロクラックや層間剝離が発生しやすくなるので、それ自体がCFは破断させるということはなくても、CFPR内部で様々な損傷が発生した結果、応力集中なのでCFが破断してしまうということがあり、間接的に強度利用率を低下させてしまいます。
樹脂含侵を向上させるというのは、非常に大きなテーマなので簡単に対処方法を示すことはできませんが、間違いなく必要な確認事項としては、
- 樹脂粘度- 低いほど含侵しやすい
- 樹脂量-多いほど含侵しやすい。ただし適切なVfになるように調整が必要。
- 含侵時の繊維のねじれの有無-ねじれがない方が含侵しやすい。ねじれがあるとCFRP内部のVfも非均質になり、構造的に悪影響を与えてしまいます。
だと考えます。
計算では考慮しきれない損傷が発生する。
特にFEMで強度利用率を求める際、計算で考慮できる現象には限界があります。例えば、圧力容器の場合ですと、ヘリカル層の繊維幅、厚み、繊維の重なりなどです。世の中にはスーパーコンピューターを用いて繊維一本レベルからそのような現象を考慮して破壊メカニズムを解明する、というような研究もありますが、一般企業からすると、現時点では実用的ではありません。
計算では考慮しきれない損傷が発生することで、想定していたCFRPの強度よりも実物の強度が低くなり、強度利用率が低くなってしまいます。
対処方法としては、こちらも、樹脂含侵と同様で、非常に大きなテーマなので私が考える2つの重要なポイントを記します。
- 繊維分布を可能な限り均質にする。ー繊維分布が非均質ということは、どこかに繊維が密になっている箇所があるということであり、そこでは樹脂の含侵不良などでクラックが発生しやすくなります。そのようなクラックは層間剝離などを誘発し、想定外の低強度をもたらします。
- 層構造を有する場合は、各層の厚みを薄くする。ーこちらも上と同じで、層が厚いとクラックが発生しやすくなります。また、織物や圧力容器などでは、層が厚いということは交差するCFによる凹凸が大きいということになります。繊維による凹凸が大きいということは、その隙間をうめる樹脂溜まりができるので、CFRP内部がより非均質になってしまいます。内部構造の非均質は応力分布の非均質を生み出し、上と同様に想定外の損傷により低強度をもたらしてしまいます。
最後に
CFの強度利用率を高くすることで、CFRPのコストパフォーマンス向上や構造最適化がしやすくなります。強度利用率が低い場合は原因を見極めて、適切に対処することで、向上させることができるはずです。まずは、原因分析からはじめましょう。
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